aida ha nani de dekiteiru ?

〈いかにしてワタシはこの本に出会ったか〉についての記録

「大気科学に関心があります」/個別科学の名称問題

ボクは地球科学に関心を持っていて、その中でも特に大気に関心がある。

ただ、自分が抱く関心について対外的に簡潔な表現で正確に記述するのは意外と難しい、と思うことがある。

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そもそも、地球科学という学問が扱う対象は非常に多くの学問分野からなる学際的領域だ。最も包括的な名称は、地球惑星環境科学ということになるだろうか。これはいわゆる高校地学の内容をカバーする学問の名前である。この包括的な呼び方のもとにある学問分野は数えきれない。

対象を(地球をいくつかのサブシステムからなるひとつのおおきなシステムとみる現代的な観点からは多少無理もあろうが)大気圏というシステムに限定してみても、これを取り扱う学問(個別科学)はいくつかある。

代表的なものとして気象学がある。といっても、すでにこれは「大きな」括りである。そこでもっと細かく分けるために研究の方法論的な分類で記述すると、大気物理学、大気化学がある。それぞれ大気現象について物理学、化学的手法を用いて研究する学問である。現在の日本では、気象学というと一般的に大気物理学のことを指すようだ。大気物理学にも大気分光学など流体力学以外の分野もある。

大気のなかのさらに細かい研究対象によって記述すると、大気放射学、雲科学、気候学、大気電気学、大気エアロゾル学などの学問の名を挙げることができる。

また、惑星科学として、地球以外の惑星・衛星の大気を研究する惑星気象学(惑星大気学)、地球史学として、古気候学、大気進化学(この名を用いる研究者は日本には少ないが)などがある。

これらの個別科学を明確に区別する基準は存在しないし、まあそうすべき理由もないのだが、たとえば自分が関心を抱いていることや研究していることについて対外的に簡潔に示そうと思った場合、これらの個別科学名をもちいる理由にはなる。

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ボクは地球史に関心があることと、化学の専門教育を受けているため、既存のディシプリンでいえば、大気化学、古気候学、大気進化学に特に関心がある。ただこの場合、「対象としては大気および大気中物質の化学的性質と反応機構、古気候、惑星の大気進化を、手法としては化学を用いて研究する」ことに関心がある、という方がより正確だろうと思う。

少なくとも日本語の表記では、学問の名称(個別科学名)は手法にもとづくものと対象によるものの2種類が混在していると思う。だからこそ、自分が関心のある内容を学問の名称として簡潔に示すことが難しい。ただ学際領域の場合、対象による名称が多いような気がする。それは手法としてさまざまなものが入り乱れているからだろうとボクは推測するが、確かなことはわからない。

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科学論的観点からは、科学者にとって重要なのは研究対象と作業仮説の証明であって、その方法論自体に対する関心は相対的に低いだろうが、一方でほどんどすべての研究者は一つ以上の個別科学に所属しているはずで、またその方法論に従っているので、個別科学自体の発展に関心がないわけではないだろうから「個別科学のための個別科学的研究」をする動機もあるだろうし、そのあたりの兼ね合いで個別科学の名称が決まっているのかもしれないと思うと、興味深くはある。

まあそんなわけで自分が大気化学がやりたいというべきなのか、古気候学がやりたいというべきなのか、大気進化学がやりたいというべきなのか、悩んでしまったのだった。どうでもいいといえばどうでもいいことなのだが。

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 結局ボクは対外的には「大気科学に関心がある」と表記することにしたのだが、この「大気科学」という名称はこれまで挙げた大気を研究する学問すべてを含めたものである、という風に理解されることを期待してのことである。

こういう場合やはり「研究対象+科学」という表記スタイルはいちばん使いやすいかもしれない。「科学」という語はそもそも「分科の学」、Sciencesを指していたわけで、このように複数の学問分野を含めて使うのにかえって適当な語ではないだろうか。

また同様に、ボクが「科学技術社会論に関心がある」と記す場合も、科学・技術や社会のかかわりを研究する学問全てを含めたものとして「科学技術社会論」という名称を使っている。この使い方の是非については良くわからないが。